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©1997 Kaii Goromaru
Atelier Kaii
http://blog.atelier-kaii.com/
- Kaii Goromaru -
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龍虎天生

 猛暑の引き波か、氷河期の到来か…2010年、師走の冷気は痛々しい。
 その、激年を締める最後の仕事が仏壇づくりとは、何とも苦いデザートであろう。幾ら大人になったとて、この種の苦さは受けつけぬ。無論このデザートとは、生涯に、幾度も味わう品ではないが。


 食べ残しをすれば、例の話が口を発つ。
 「贅沢な。戦時中は皆、食べるものが無くて我慢をしてきたんだが」と。


 まだまだ若輩の小坊主は、鼻でその文句を蹴散らす。それでも、日々を共に過ごしていれば、幾多に及び登場するその類の噺に、大東亜戦争というものの、何やら黒々とした特有の寒気には、小坊主も一目置いていた。
 掘り起こせば、生まれて初めて連れて行ってもらった映画が、日露戦争の旅順攻略を舞台にした『二百三高地』だったのだから、それも無理はない。形見のひとつに、軍歌『戰友』の長々とした歌詞を広告の裏紙に記したものあり。また酒宴で唄えば、『麦と兵隊』が必ずといって選曲される、なども同じく。


 「『危ない!!』と思って地面に伏せれば、身体から50センチのところに焼夷弾が突刺さっていた」というのは、昭和20年6月19日、あの忌まわしい福岡大空襲のそれ。のちに妻となる幼少の千恵子は、遥か飯塚から、その真紅に燃え上がる福岡の夜空を見ていた。
 甲子園球場と同い年となる、大正13年2月16日生まれ。青春まっ盛りの大日本帝國陸軍時代に受けたそんな大事を耳にしても、いささかのペースも崩さぬこの小坊主とは、まさに馬耳東風。ある日、炬燵(こたつ)でうたた寝をする、その奇跡の生還を遂げた人士の耳元へ、「ウ〜〜〜!!ウ〜〜…空襲警報発令〜〜!!」と、山猿発する奇声を靡かせた。


 小坊主は、「この大馬鹿者!!」の言葉を待っていた。なぜなら、逃げる準備もしていた。
 しかしどうして、微動だにせず、ただただ静かに瞳を開けただけのうたた寝の名手は、目前の小坊主を、ギロと見遣った。そしてその、かつて見せたことの無いほどの寂しげな眼差しに、小坊主は戦争を茶化すのを止めた。この日以来、一切。


 『絵が描ける』とは、どれほど幸せなことか。

 『絵を描く時間がつくれる』とは、どれほど世の中が平和な証拠か。

 どこへゆくにもスケッチブックとボールペンを手放さなかった彼の、その愚直な姿を間近で見続けてもピンとこなかった小坊主が、この道理を理解するには、あと、30余年の時を要する。


 「親孝行、したい時には親は無し」


 人士からじきじきに、耳に開閉扉でもつけてみたくなるほどに小坊主は叩きこまれ、しかし予言的中、何らの孝行も、遂げられず。空回りしながらでも近づいていたはずの、そのささやかなる夢は、2010年11月14日(日)20時26分、哀しくも、終に散った。


 悔やんでも悔やみきれず。まさに、『吾亦紅(われもこう)』の父親バージョンでもあれば唄ってみたいかの、陰る年の瀬となった。
 仏壇を自らの手でつくり上げることが、せめてもの親孝行となり得るのであれば、かつての小坊主も、少しは成長したのであろう。

 龍虎、天を巡り、世を馳せる。


     2011年 清春

        Atelier Kaii

          五郎丸 塊維



訃 報

 2010年11月14日(日)20時26分、私の父である、画家・五郎丸清春(日展系示現会会員)は、家族の見守る中、福岡市内の病院に於いて、その生涯に幕を下ろしました。

 大正13年2月16日生まれの、享年86歳。

 「人生の最期が楽しくてしょうがなかったら、死んでも死にきれないだろう」とは、尊敬する名医から頂戴したお言葉ですが、その、生涯の後半に背負わされた病らとの長い闘いは、日展に向けた大作に、筆を入れることを諦めねばならないほどの、老木に刄を入れるかの修羅場であり、私たち家族は元より、たくさんの医療関係者、介護福祉の方々の助力を乞わねばならぬ、過に切なるものでした。

 ただ、その過酷な闘病生活に於きまして、ゆらゆらたなびく水中花のように、息を控え、静かに、そっと眠るような最期を迎えられましたことは、私たち遺族の、せめてもの、心の安らぎとなっております。

 この場をお借りしてではございますが、父の闘病生活を支えてくださいました、数多くの皆さま方へ、篤く御礼を申し上げます。境地ともいえる、この大団円まで辿り着けましたのも、皆さま方のご厚情がありました故の帰結でございます。遺族一同、心より感謝いたしております。

 粗野な引用ですが、地雷は敢えて、人を殺さぬ程度の爆薬を詰めてあると耳にします。敵を殺しては、その遺族に決して消えない憎しみを刻ませてしまうことがひとつ、もうひとつは、近親者を怪我人の介護にまわし、手を煩わせるのがその理由だということです。

 私は後者は、現代医療、その中でも延命治療に投じられた大きな課題であり、核家族化が進むこの世の中で、『姥捨山(うばすてやま)』など、あってはならない話がすぐそばまで迫ってきているような、不穏な気がしてなりません。『延命治療=地雷』とならぬよう、延命と介護の両立を真剣に考えてゆかねばならない…日本を始めとする先進国が、今まさにそういう状況にあることを、痛切に感じております。

 『人は二度死ぬ』

 フランス留学時代に、私が、文学を専攻する友人からいただいた、伝え文句です。一度目は、肉体の死。二度目の死は、自分の存在が、周りの皆から忘れられた刻だそうです。

 父の病床で、偶然看護師の方とこの会話をすることとなり、横たわる父の耳に、その内容が届いていたかの確信はございませんが、私は、『絵を遺す』という行為は、この二度目の死に歯止めをかける、絶好の大業ではないかと思うのです。自らの描いた作品が、400年、500年後の誰かの琴線を揺らす。自分の肉体が滅びようとも、生前に感じたこと、生涯で築き上げた万感の想いが、未来の子供たちへと贈られるのです。

 まだまだ整理のつかない、父の作品群然り。息子である私が観ても、遅かりし、今頃、その偉業を感ずる作品に出逢います。それらの作品を、後世へ遺してゆくこと。遠い未来の絵描きさんへと、大事に語り継いでゆくことは、遺された私に課せられた使命であると、認識しております。

 2011年2月度の、村岡屋ギャラリー3Fに於ける『故・五郎丸清春 遺作展』は、その序曲です。数十年に亘る画業の、ほんの一部に過ぎません。近い将来行われるであろう、第2、第3の遺作展にも、ぜひご期待ください。

 そしてもちろん、私自身も、これまで以上の創作活動を行ってゆく所存です。コンクールに出品しないのも、以下に属する道筋となりますが、生きている者ではなく、死んでいった人たちを目標に掲げるのは、私の常々からの生き方であり、父が他界した今となっては、無論、父も私の生涯の目標と相成りました。

 最後に今一度、これまで、私たち親子を支え続けてくださいました多くの方々へ、深く御礼を申し上げます。
 古賀之士アナウンサーを始めとする、FBS福岡放送『めんたいワイド』、『24時間テレビ』、『目撃者f』のスタッフの方々には、父の生き様を、貴重な映像として、遺していただきました。父の面影にじむ、かけがえの無いフィルムとなっております。心より、感謝いたします。

 どうか今後とも、私共父子を、宜しくお願い申し上げます。
 皆さまのご多幸を、亡き父と共に、切にお祈りいたします。



     2011年 清春

        Atelier Kaii

          五郎丸 塊維



五郎丸 清春
- Kiyoharu Goromaru -
1924-2010


 1924(大正13)年2月16日、福岡県筑紫野市二日市生まれ。
 二日市小学校高等科から、12歳で画家になる決意を固め上京。東京都立上野中学、上野高校を経て、武蔵野美術大学二部卒。
日本画を竹内秋峰、川端龍子、洋画を寺内萬治郎、奥瀬英三、清水多喜示、土屋幸夫の各氏に師事。
 母の訃をきっかけに帰郷、県立高校の非常勤講師なども務め、地元福岡で、筑紫耶馬溪、西公園眼下の船溜、旧福岡市庁舎、博多パラダイス夕景、中洲夜景など、郷土色豊かな作品を数多く遺す。
 アトリエ筑紫会会長として絵画指導に取組む傍ら、手術室から遊園地のリフト、チャイナドレス、裸婦像までをモチーフとした人物画の大作で、日展入選9回を数える。示現会会員。福岡県美術協会会員。福岡市南区美術展審査員。
 毎年恒例となった、母の日・大丸福岡天神店パサージュ広場での『お母さんの似顔絵コンテスト』、金融機関ロビー等での『開運の干支チャリティー色紙展』は、盛況を収めた。
 寝食を忘れ制作に没頭するなどの若い時分の無理は、胃や頭部手術の形で報いとなる。後半生は病との並走であったが、『なにくそ魂』を信条に、絵筆を置くことは無かった。長きに亘る闘病生活は、福岡市内の病院にて終焉を迎える。2010(平成22)年11月14日没。享年86歳。

【画歴】
全九州朝日賞コンクール・71年示現会展受賞
86年西日本美術展久留米市長賞受賞
88年第7回安田火災美術財団奨励賞展『金門屏風等のある部屋』変形80号・87年制作
日展入選9回
日本版画賞・名士余技展受賞
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